ナイフの産地として有名な岐阜県関市で生まれ、ナイフ削り職人からファクトリーへと移行した松田菊男氏が主宰するKIKUナイブス。
ファクトリーを営む松田菊男氏は先代の父(刀の研ぎ師)から技術を受け継ぐ形でナイフ削りの技術を磨き、海外の主要なメーカーの削りや加工を引き受けていたという。
スパイダルコをはじめ、ウィリアムヘンリー、ナイツ(米国防総省の要請で銃器を開発)のブレード研磨を担当するほどの腕の持ち主というから職人というよりは名人といったほうがしっくりくるかもしれない。
数々の作品を手掛けていく中でオリジナルとして松田菊男氏が生み出したファクトリーナイフは経験と技術に裏打ちされ、熟成されつくした作品と言えるだろう。
そんなKIKUナイヴスのラインナップでもひと際ブレードライン(リカーブ)が目を惹くシースナイフ、サイクロンをレビューしていきたい。
松田菊男 作
Cyclone / サイクロン
Overall Length 225mm
Blade Length 120mm
Blade Material OU-31
Blade Finish Etching
Handle Material Black Canvas Micarta
特徴的なセカンドポイントから湾曲するリカーブブレード形状。
刃先からグイっと内に曲がり綺麗なカーブを描く。
刃先(エッジ)はブレードの両面が凸面に削られたハマグリ/蛤刃になっている。
表面のエッチング処理と墨を垂らしたような独特なパターンは松田菊男氏のオリジナル。
ブレード鋼材OU-31とKIKUナイブスの“菊”の文字が刻印されている。
全長は225mmとKIKUナイヴスのラインナップの中でも小型だが刃厚(5mm)があり同じ全長のフォールディングナイフと比較しても存在感がある。
同じ形状で一回り大きいハリケーンというモデルもあるが、釣りの用途としては大きすぎるためサイクロンの大きさはちょうどよく感じる。
ハンドルは手にしっくりと収まるフィンガーチャンネル形状で実際に持ってみるとガッチリとフィットして滑ったりブレたりする感触は一切感じない。
このマイカルタ材ハンドルは松田菊男氏のオリジナル形状で、SOGのコラボモデルでは菊フォルダーと名売って展開されている。
立体感があってホールド感は十分。
背に刻まれたジンピング(親指をかけた時に滑り止めになる)はブレードからハンドルにかけて付いており、刃先と刃元にかけて細かい作業する際に力の入れ具合が変えられるよう工夫されている。
背と腹の表面にもブレードと同様のエッチング処理とパターンが施されている。
刃先は蛤刃で、セカンドポイントからリカーブした刃はスリムな小刀刃付けになっている。
付属のカイデックスシースはハンドルの形状に合わせて成型されていて、カチッとした収納抵抗があり安心感がある。
このカイデックスシースは松田菊男氏の息子さんが制作しているらしい。
ハンドルを持って引き出してもいいが、シースの上部を親指で押し出しすようなかたちで引き出すとスムーズだ。
シースにはベルトに取り付けるためのベルトクリップが付属する。
カイデックスシースの穴にねじ止めして固定する。
またシースの形状に合わせて固定できるようにゴム製のカラーをネジの間に挟んで固定できるようになっている。
切れ味は申し分なく、軽く腕に当てるだけで産毛が剃れる。
抵抗の少ない蛤刃の刃先が魚体に入り、後は少ない力でリカーブした刃にそって魚を捌いていくことができる。
刃先だけで魚の身を切って切り分けることもできるが、リカーブから刃先にかけてのポイントで引くようにして切ると面白いように身が切れる。
シースナイフとしての機能は申し分なく、よりハードな環境下ではフォールディングナイフより安心感があって使いやすい。
サイズ感はアウトドアユースでもオールラウンドに使え、動きの多い釣りの用途としても邪魔することはない。
今回サイクロンを紹介したが、松田菊男氏のナイフの完成度の高さと熟成を十分に垣間見れたのではないだろうか。
シースナイフとしての完成度もさることながら、機能・性能的なポイント以上に松田菊男氏の“意匠”を凝らしたナイフのデザインが、ユーザーの気を惹いてやまない魅力なのかもしれない。
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