冬は遠投カゴ釣り師にとって不毛な季節と思われがちだが決してそんなことはない。
確かに釣れる魚種も限られ、釣り人にとっても厳しい季節ではあるのだが、ある場所を除いてはそんな暗鬱とした気分を度外視できる釣り場が存在するのだ。
我々はそんな素晴らしき釣り場を“伊豆大島”と呼んでいる。
メジャーすぎてひねりを加える必要性を感じることができなかった・・・
魚の引きに飢えに飢えていたわたしが籠師会メンバーのミヤナガ師と2/22東海汽船の待合所で落ち合ったのは夜の9時を過ぎる頃だった。
彼はジャージ(下)に良く分からない毛の生えた薄手のジャケットを羽織って、キャリーに積んだ釣り具をガラガラと引きやってきた。
とても“冬の釣り”という過酷な状況に対応しうる風体ではなかったため、見た瞬間うろたえてしまったのだが、下にダウンインナーを着ているから問題ないということらしい。
こっちは裏起毛インナーにバイク用のジャケットインナーを重ね、その上に防寒ジャケットという体制だったから、なんかこう気が抜けたような感じになってしまたんだけど。
待機所は昔に比べてサイクリングの人が増えたなぁと思いあたりを見回していると、釣り人よりそっちの方の人が多くて驚いてしまった。
ぼちぼちと最後列を横目にお決まりの大型客船(サルビア丸)に乗り込み、伊豆大島へと向かった。
伊豆大島の釣行が決まってからどうも天気が怪しかったのだが、雨よりも風の強さの方が気になってしまってどうしようかなんて思っていたんだけど、風裏に行けば大丈夫だろうという確信があったから特に議論もせずに足を運んでしまったんだよね。
岡田港に到着したら予報通り北東の風が強く、ビョ~~ッと断続的に吹いていて、予報通りだし風裏に行けば問題ないとそこでも特に気に留めていなかった。
夏場であれば岡田に到着したらそのまま岡田の先端に直行し釣りを開始するという選択肢もあるのだが、流石に冬ではそんな気も起きず、冬服の重量感に負け、オキアミ等の重量物をわざわざ船に持ち込んでという手間をかける気も起きなかった・・・
岡田の新しい東海汽船の待合所。
懐かしの畳でくつろげるほうの待合所は閉鎖されていた。
籠師会常宿の八幡荘に荷物を置き、ミヤナガ氏を宿に残しわたしはモービルレンタカーへ車を借りに。
八幡荘へ戻り、釣具を積み込み元町の丸一釣具店に向かいまずは釣り場のチェックへと向かった。
北東風の場合は東側(裏磯)より西側(表磯)のほうが風裏になるため、南西に位置する波浮港こそ本日のメインポイントとなる予定だった。
まずは元町港の様子をうかがったのだが依然として風が強く選択肢にはならなかった。
丸一釣り具でオキアミ4.5kgと付け餌を調達しメインポイントとなる波浮へと足を向けた。
野増から差木地あたりでは強かった風も影を潜めだし、良場へとなるかに見えたのだが、波浮港へ近づくにつれ強風が蒸し返してくる気配が・・・
嫌な予感が漂い始め、波浮港の入り口に到着した我々は衝撃の事実を知ることとなる。
いつもであれば堤防へ軽が一台入れるスペースが空いているのだが、なぜか“立ち入り禁止”の看板で塞がってしまっている。
どうやら現在工事の関係で波浮港への立ち入りは禁止されている模様だ。
ただそれ以上に方角の定まらない予測不能な風が吹き荒れる状態で、立ち入り禁止でなくともとても釣りどころではない。
前回も風に悩まされたが、まさか今回も・・・・
~なにが風裏だよ~
こうなったらバックが絶壁で遮られて風に強いあそこに行くしかない・・・
そう、海のふるさと村 メメズ浜の絶壁釣り場。
一周道路をぐるっと周り、急カーブを曲がりながら勾配を降り、海のふるさと村ロッジを過ぎてメメズ浜へ。
すでにここまででかなりの時間を費やし、時刻は9時を過ぎていた。
ジャージ姿に謎のフサフサ毛で覆われたジャケットを羽織り、メメズ浜の右手にある絶壁のポイントへ向かうミヤナガ氏。
寒そうにする彼をこの後悲劇が襲うことを誰が予想しただろうか。
こころなしか哀愁が漂っている。
やはりバックが風を遮り風には強いのだが、どうにも波が強く足元にも波が打ちつけている状態だった。
波浮に裏切られ傷心気味だった我々は新たにポイントを開拓する士気も上がらず、もうここでやろうか的虚脱感に襲われていた。
良い感じにサラシも出ているし、風も問題ない、もはやこのポイント以外で好ポイントを探すことは困難だろう。
そう自分に言い聞かせていた我々の気分を一掃するかのように大きなうねりが我々の足元に打ちつけた。
バックは断崖、幅1m程度の小道で、真下は6mの高さである。
そんな逃げ場も作れない断崖で我々はされるがままに膝下に大きく波しぶきをかぶり、腰下は無残にもびしょ濡れとなり、靴の中まで海水が染みる事態となった。
多少ヤル気は削がれたが、この時点では、まだこの好ポイントを捨てるところまでの決断にはいたらなかったのだが・・・
靴の濡れにも耐えながら立ち位置を確認し、釣り座を再度確認しようとウロウロしていた我々にそれまでにない大きなうねりが押し寄せた。
まさか第二波がこようとは。
気づいた時には身構えることしかできず、先ほどの波の高さを大きく上回り、頭からバケツをひっくり返したかのような波しぶきをモロに受けてしまった。
「ウワッ」
わたしは防水ジャケットで固めていたため被害は最小限に抑えられたのだが、甚大な被害を受けたのはミヤナガ氏であろうことは想像に難しくない。
謎の毛でモサモサしていたジャケットは元気を失って垂れ下がり、まさに雨に濡れた犬のような様相を呈していた。
これが決定打となり、この好ポイントは断念せざる得なかった。
~もう海ふるの堤防でいいや~
メメズ浜からほど近い海ふるの堤防に車をつけた我々は、失った時間を取り戻すかのようにイソイソと釣りの準備を開始した。
ようやく釣りができる・・・・
災難もあったが、風もいい感じにおさまったし、あとはウキが沈むのを待つだけだ。
そんなボロボロの状態で釣りを開始しようとしたまさにその時、追い打ちをかけるように、更に災難が降りかかった。
これは自然災害というよりは人的なものだったのだが・・・
施設員:「ここ車ダメなんで」
竿を伸ばし、仕掛けを作り、いざ釣りを開始しようとした瞬間である。
この施設員には我々がどのような経緯をたどってここまでたどり着き、どのような面持ちで竿を握っているか想像もできんだろう。
もう返す言葉も見つからず、薄気味の悪い微笑を浮かべる始末。
言葉を失った我々はしばらく棒立ち状態であった。
北の岡田から島を一周して東のポイントを失ってしまうと、もはやポイントは北東の泉津しか残されていない。
今更、また半周して表磯へ行く気も失せていた。
そこまでするくらいなら、もう夜釣りでいいやという感じだった。
ダメもとで泉津港へたどり着くと、もろに北東風で釣りはできないだろうと決めつけていた予想に反するかのように穏やかな横風になっていた。
岡田から泉津までわずか5分足らずである。
最初からこっち来ていれば・・・・
運よく堤防の先端部にも人はおらず、昼の部の釣り座がようやく泉津に決まった。
使用タックルは
宇崎日新 INGRAM 両軸 遠投 4-550
Abu BigShooter WM60
ミヤナガ氏のタックルは
磯遠投AX
ダイワ レブロス 3500
堤防先端からオオツクロの磯を真正面に70mほど遠投してコマセを効かせる。
泉津は水深があるため棚は深めから探っていくことに。
数投しているとウキに反応が出ずに餌が取られだした。
この時期やはり魚を寄せる前にフグの襲撃に合うことは予想できたが、想像以上に餌が取られるのが早く、手返しよく同じポイントに絞って投げ続けないと魚が寄ってこない。
7投目くらいでようやくウキにもぞもぞと反応があり、合わせて見ると軽いが魚の引きがある。
ベラかぁ。
イサキとかアジだったらテンション上がったのになぁ。
その後しばらく同じポイントに投げ続けたがウキに反応は見られなかった。
作業のごとくカゴに餌を詰めては投げる動作が長い時間続いたが、なかなか渋い。
昼が過ぎ、太陽も昇りきり、前半戦はここまでかとあきらめかけていた時、わたしは隣で釣りをしていたミヤナガ氏の一声を聞いた。
その一声はウキが沈んだ時の反応に対する一声に違いないと勝手に想像して元気を取り戻したわたしは、ミヤナガ氏を見て絶句してしまった。
それは期待した状態とは正反対の性質ものだったからだろう。
うわぁあ 折れてる。
確かに一声がある前に、「モシッ」って鈍い音がしたけど。
~「え、なんでそんなところから折れんの?」「知らん。」~
平静を装っているが、おそらくこころ穏やかではないだろうな・・・
あまり深く追求せずに自分の釣りに集中しようっと。
彼もあまり深くは追求せずにサブ用の3号竿へと静々と仕掛けを作り直しはじめたし。
わたしは先端からポイントを変えて、先端から右手の更に水深のあるポイントへと仕掛けを投げ始めた。
相変わらずフグらしき付け餌への攻撃が見られたが、本命が寄ってきたのか次第に付け餌が針に残りはじめた。
仕掛けを投げて、ウキを見ている間に暇だったので、近くに誰かがゴミとして放置し落ちていたタモの柄の残骸(3節分くらい)をブンブン振って筋トレしていたのだが、チラッとウキの方を見て見るとウキが無い。
波があるからウキが隠れたのかな?
あれ?ウキが浮いてこない、魚かかってる、ヤバい!
振っていたタモの柄をぶん投げて、一目散に置き竿の元へ。
なぜ、ウキを注視しているとアタリが無いのに、目を離している時に限ってアタリがくるのだろう・・・
合わせると、魚の重量が竿に大きくのった。
本命だ!
イングラムがしなり、竿先が海中へと引きこまれていく。
隣で竿を折ったミヤナガ氏が羨ましそうにしている。
魚の引きを体感したいのは分かるが、やりとりしているわたしの竿をつかむのはやめて欲しい。
手前まで寄せるが、下に突っ込みウキが見えても魚体がなかなか現れない。
丁寧にじりじり寄せると、観念したように魚体が浮いてきた。
黒い魚体がギラリと輝く、メジナだ。
わたしが手をパーにした時の親指と小指までの長さが22.5cmなのだが、それを二つ分(45cm)にして少し足りないくらいの40オーバーの立派なクチブト。
タモの柄の残骸で筋トレしていたのに、本来用意するべきタモを用意していなく、抜き上げてしまったのだが、危なかった・・・
ま、それでも折れることは無いけどね・・・なぜミヤナガ氏の5号竿が突如として折れたのかはいよいよ謎である。
ようやく本命を手にして、これまでの全ての苦難が取れ去った気がした。
前半戦(お昼の部)の本命釣果はこのメジナ一本のみだったが、質の濃い釣果と言っていいだろう。
この後は竿をたたみ夜の部へ向けて八幡荘で休憩をとることとした。
このブログは後編につづく、
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